2024(令和6)年度入学式 式辞

 新入生のみなさん、藤女子大学へのご入学、誠におめでとうございます。また、今日まで豊かな愛情を注いで来られた保護者の皆様にも心からお祝い申し上げます。

 今日は朝から春の青空が顔をのぞかせ、皆様の入学を明るく祝っているように思います。皆さんは中学時代から高校時代にかけてコロナ禍を経験し、いろいろ辛い思いもされただろうとお察し致します。しかし今日からは新しい日々が始まります。 

 いよいよ皆さんの人生の新しい1ページが開かれようとしています。藤女子大学は全教職員あげて皆さんの大切な4年間をサポートして行く用意が出来ています。何か分からないこと、不安なことがあれば遠慮せずいつでも先生方や職員の人に聞いて下さい。藤は学生と教職員との距離が近く、いわゆる「面倒見の良い大学」として知られております。それが本当かどうか、皆さん是非確かめてみて下さい。

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 さて、皆さんが入学された藤女子大学はどのような大学でしょうか。3点申し上げます。

 まず第1点は、この大学はカトリック大学であるということです。既にこの大学の校舎の中に入られて、十字架がいたるところにあることに気づかれたでしょう。この講堂にも私の後ろに大きな十字架がありますね。そして十字架によっては、イエス・キリストの像がかかっているものがあります。一見したところ、ちょっと怖いような、不気味な印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。それは無理もありません。たしかに十字架の刑は刑罰の中でも最も厳しく残酷なものであり、現代ではどこの国でも行っていません。

 それではなぜ藤ではそんな恐ろしく思えるものを学内の至るところに飾っているのでしょうか? それは十字架と十字架上のイエス・キリストが、私たち人間に対する神様の深い愛と慈しみを表していると考えるからです。イエスの教えはただ一つ。「互いに愛し合いなさい」ということにつきます。藤は愛することを学ぶ大学です。まず自分を愛し、そして同じように隣人を、他者を、さらに動植物や自然環境を愛しましょう。

 「神の愛」と言うとちょっと難しい、縁遠いものと思われるかもしれません。ラテン語の諺に「Ubi Caritas Ibi Deus」というのがあります。その意味は「愛と慈しみのあるところに神はいる」ということです。私たちの学園の建学の精神である「愛を通して真理へ」(Per Caritatem Ad Veritatem)ということばもそこに由来します。 藤女子大学はそのような深く大きな愛を知ることへと招かれている大学です。このことこそが、皆様が藤に入学されたことの最も大切な意義であると私は考えております。

 藤の特徴の第2点は、言うまでもありませんが、藤が女子大学であるということです。皆さんは「The Global Gender Gap Report」という報告書について聞いたことがありますか? 毎年1月にスイスのダボスという町に世界中から政治家や経営者たちが5000人以上集まって国際的な問題を討議する「ダボス会議」という国際会議が開催されますが、この会議を主宰する「世界経済フォーラム」が公表しています。この報告書は各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数を発表しています。この指数は、「経済」、「教育」、「健康」、「政治」の4つの分野でさまざまなデータから作成されています。上位はヨーロッパの国々が占めており、特に1位はアイスランド、2位はフィンランド、3位はノルウェー、4位にニュージーランドが入って、また5位にはスウェーデンと北欧諸国が高得点、つまり男女格差がほとんど無い状態にある事を示しています。

 翻って日本は何番目くらいだと皆さんは思われますか? 日本は、146か国中116位、先進国の中では最低レベル、韓国は99位、中国は102位、アジア諸国で最も高いのはタイで79位です。この数字を私たちはどう解釈したら良いのでしょうか?四つの分野の内、教育(1位、但し前年は92位)と健康(63位)はほぼ及第点をもらいましたが、「経済」(121位)と「政治」(139位)の分野での評価が極端に低くなっています。より詳しい分析が必要ですが、差し当たって言えることは日本では残念ながら女性はやはり差別されているという事です。教育の分野でも実態をみると女子の大学進学率は男子のそれより低いですし、教育・研究面、さらには就職指導などの面においてもどうしても男子学生が優遇されがちではないでしょうか。女子大である藤ではそのようなことは起こりません。全教職員が一丸となって皆さんの教育研究や大学生活、そして就職活動を最大の優先課題として指導し、支援致します。藤でしっかり知的素養を積み、社会貢献できるスキルを磨いてください。そして藤から巣立った暁には男性と伍して切磋琢磨できる人材となって、ジェンダー・ギャップを改善する「ゲーム・チェンジャー」になって頂きたいと考えております。

 皆さんにはこれまでの日本のジェンダー格差の流れを変える力と強さがあると私は確信しております。キリスト教の聖書の中にもさまざまな女性が登場しますが、私がいつも感動するのはイエス・キリストの受難の際に十字架のそばに集う女性たちの姿です。男性の弟子たちがイエスと一緒にいたことを否定し、逃げ去ったのに対し、ガリラヤからイエスに付き従った女性たちは泣きながら十字架の道行きに同行し、最後までイエスの姿を追い求め寄り添います。この女性たちの類まれな強さ、「逃げない強さ」には男性達の抱いた恐怖心を圧倒するものがあります。皆さんも自分の中にあるそのような強さにすでに気づいていらっしゃるのではないでしょうか。まだ気づいていないという方は是非藤での4年間の間に女性としての「内なる強さ」を見つけて頂きたいと思います。

 藤の特筆すべき第3のポイントはその「国際性」にあります。それは単に15を超える海外の大学と協定関係にあって皆さんに留学の可能性があるということに留まりません。藤はほぼ1世紀前から特別な「国際性」を特徴として持っているのです。それは本学の礎を築いて下さった3人のドイツ人のシスターたちの思いです。

 1920年北ドイツに本部がある「殉教者聖ゲオルギオのフランシスコ修道会」から船に乗っての長旅の末日本にやって来たシスター達。当時は第一次世界大戦が終わってまだ2年しかたっていない戦後の混乱期でした。日本は当時英国やアメリカの側に立ってドイツと戦った「敵国」でした。その日本に骨を埋めるべく故郷を離れて北海道にまでやって来た若きシスター達。かつての敵国の地に、文化も風習もそして食べ物さえも全く異なる国への派遣は彼女たちにとってどれほど不安なものであったでしょうか。その不安と幾多の困難を乗り越え1925年には札幌藤高等女学校を設立し、いよいよ教育活動が開始されました。そしてそれが今日の藤女子大学に繋がっています。藤の国際性はまさに彼女たちの献身的働きと祈りの賜物です。

 北16条キャンパスの学生食堂には「クサベラ・ホール」との名前が付いています。これは先ほどご紹介した3人のシスターたちの一人であるクサベラ・カタリナ・レーメに因んだものです。皆さんが学食でお食事をされる時には是非3人のシスターたちに思いを馳せて下さい。(余談ですが、本学の学食は花川キャンパスの学食も含めて私がこれまで所属した4つの大学の学食と比べて一番おいしい学食です。どちらも温かいランチを提供しています。)

 以上、藤女子大学について語るときに外せない3点についてお話しました。まず「カトリック大学であること」、つまり本学は愛することを学ぶ大学であること。次に「女子大学であること」、つまり男性優位の日本社会を変える内なる強さをもったゲームチェンジャーになって頂きたいこと、そして最後に「歴史と伝統に根付いた真の国際性」です。これら3つのポイントを皆様もお心の中でしっかり捉えて頂き、向こう4年間の充実した学生生活を送って頂きたいと思います。 

皆様お一人お一人のご成長と自己実現を心から祈りつつ、私の式辞と致します。

2024(令和6)年4月2日 藤女子大学学長  渡邊 賴純

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