藤のルーツ 第5回

祈りと説教と奉仕

今回は、教皇に承認された兄弟たちの新しい生活の中で、フランシスコの心に生まれた内的な葛藤について触れたいと思います。フランシスコは求めていた新しい生活、神との深い交わりの中に生きる生活、山奥で昔からベネディクト会の修道士たちが隠遁所として使っていた洞穴などに籠った祈りの生活――このような生活に心から魅かれながら、度々、隠遁所に出かけて祈りのうちに過ごしていました。そして、生涯このような生活を送ることへの強い憧れも感じていました。

一方、彼の心には世俗的な名誉や富や快楽に溺れた生活をしている当時の人々に、神の愛を伝える望み、その使命感も生まれてきていました。福音に従った新しい生活へ人々を招き、そして、ハンセン病患者など世の中で疎んじられている人々への愛の奉仕に生きる望みも断ちがたいものでした。

彼はこのような心の葛藤の中で、神が彼に望んでおられる道を知りたいと考えていました。そこで、ある時、ポッジョ・ブストーネという山の中の隠遁所で過ごしていた時、彼はそこから仲間をアシジの修道女クララの所に遣わして、神は自分に何をお望みか、と尋ねさせました。その時、クララは返事として、「人々の中に出て行き、神の御心と回心を告げ、人々に神の平和を宣べ伝えるように」との伝言を与えました。そこでフランシスコはこの場所から、二人ずつ兄弟たちを派遣して人々に平和のメッセージを告げる新しい生活を始めました。

このようにしてフランシスコは、修道生活の歴史において新しい形の修道会を始めました。聖ベネディクトに始まる従来の修道生活は、人里離れた修道院で共住の定住生活を送り、祈りの内に農耕生活や学問をしたりして自給自足の生活をしていました。一方、フランシスコは二人ずつ組んで至る所に出かけ、人々に平和と罪の赦しのための悔悛を宣べ伝え、托鉢しながら神の摂理に全く信頼して生きる生活を始めたのです。

(左)ポッジョ・ブストーネの隠遁所 (右)人々に向かって出かけるフランシスコ
(左)ポッジョ・ブストーネの隠遁所 (右)人々に向かって出かけるフランシスコ