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2019.10.29
学部・学科
    #文化総合学科

「カラヴァッジョ展」を見に出かけました

 9月26日、「基礎演習」の時間を利用し、1年生全員で「カラヴァッジョ展」(北海道立近代美術館)を見学しました。ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)は、対抗宗教改革の時代に、光の効果を駆使した聖性の表現によって宗教美術に革新をもたらした画家として知られています。その短い生涯にも関わらず、カラヴァッジェスキと呼ばれる一群の追従者を生み出したことからもわかるように、バロック絵画の先導的役割を果たした人物です。
   今回の展覧会では、カラヴァッジョとカラヴァッジェスキの作品約40点が展示されました。鑑賞後のアンケートで、学生たちに印象に残った作品とその感想を挙げてもらったところ、上位5作品は以下のようになりました。感想も合わせて紹介します。
 
1.カラヴァッジョ「リュート弾き」
・果物、楽譜、弦、花瓶の中の枝や花瓶に映った窓など、細々とした描写に驚いた。
・白い服を着ており、花瓶の花も白が際立っているように感じた。白という色に何か意味があるのか疑問に思った。
・最初女性だと思っていたが、スペイン人の歌手の男性がモデルと知り驚きを感じた。
2.アンティヴェドゥート・グラマティカ「清純の寓意」
・白と黒が基調なのでシンプルで清純なイメージが表現されていると感じた。
・モノトーンであるが、肌の質感が陰影によってリアルに表現されていた。
・肌のつやや服のフリル、鳥を抱く手や鳥の毛の柔らかな質感など、写実的であった。
3.カラヴァッジョ「メドゥーサの盾」
・メドゥーサが命を落とす瞬間の驚きから恐怖へと変わっていく表情に惹かれた。
・目を合わせると石になってしまうと言う話があるので、盾にメドゥーサを描くのはとても面白い発想だと思った。
・首から垂れている血の感じと、目の力がとても印象に残った。
 

   ■ 「メドゥーサの盾」の顔出し看板                                   ■ 美術館東門の「バッカス」

4.カラヴァッジョ「病めるバッカス」
・チラシにも使われていた絵で、顔色が悪く描かれていると思っていたが、絵が描かれた背景を知って納得した。
・唇の色が心配。
・みずみずしい果物や布の白い光沢が、鏡に映った病める自身の顔を、より印象的に見せていた。
5.ハートフォードの画家(カラヴァッジョ?)「花瓶の花、果物および野菜」
・人物画が多い中、静物画だったので印象に残った。
・よく見るとトカゲやひび割れた野菜が描かれており、細かい発見が多かった。
・背景の無機質な色が、生命力を持った花々や果物をより一層引き立たせていると思った。

                    ■ チケットの配布                 ■ アンケートの記入

 また、アンケートでは、今回の美術展全体についても感想も尋ねました。上位5作品についての感想と同様、写実性や光と影の使い方など、造形的な表現についての感想が多く聞かれました。また、「絵の中に引き込まれていくように感じた」、「自分も実際にその場にいるような気分を味わった」というような感想も多く見られましたが、これはカラヴァッジョがしばしば用いた「不在効果」によるものといえそうです。「不在効果」とは、画中のテーブルの手前の席を空けることによって、鑑賞者にその席に着いているように感じさせるなど、鑑賞者を画中に引きつけることを狙った効果です。「リュート弾き」の手前にあるもう一台の楽器も鑑賞者を演奏に誘う効果を持つと指摘されています。
 今回の展覧会では、「斬首や処刑を描いた絵」が多かったという指摘も多くありました。まず「ホロフェルネスの首を斬るユディト」については、カラヴァッジョ自身の作品は大阪会場のみの出品で札幌では見られませんでしたが、札幌ではフィリッポ・ヴィターレの作品が展示されました。「ゴリアテの首を持つダヴィデ」もカラヴァッジョのものは名古屋会場のみでしたが、札幌ではパオロ・グィドッティとオラツィオ・リミナルディの作品が見られました。「聖セバスティアヌス」については、カラヴァッジョとルイ・フィンソンの作品が展示されました。これら同じ主題を持つ絵を比較しながら感想を書いてくれた学生も複数いました。
 同じ主題を持つ絵がいくつもあるように、絵画は目の前の情景を写し取ったものとは限りません。神話や聖書や聖人伝のなかの題材がいろいろな画家によって取り上げられています。また「清純の寓意」に限らず、「正義」、「思慮」、「信仰」などの徳目も絵画のモチーフに取り上げられたりします。「絵の解説にはキリスト教や神話のこと、また人名が多く出てきたが、知らないことも多く、知識不足だと感じた」、「画家の生きた時代を勉強するともっと面白く見られるのではないか」という感想の通り、聖書や哲学や歴史の知識があると、造形的な見方とはまた違った形で絵を楽しむことができるでしょう。「ホロフェルネスの首を斬るユディト」や「ゴリアテの首を持つダヴィデ」はルネサンスの時代以来、愛国心の象徴として、また「聖セバスティアヌス」はペストから逃れるために祈願された聖人であったために、しばしば取り上げられた主題です。実際、幼い頃、ミケランジェロ・メリージがペストを逃れてミラノから疎開したのが、彼の名前の由来ともなったカラヴァッジョ村でした。幸い文化総合学科では、聖書や哲学や西洋史を学ぶ授業がいろいろあります。卒業旅行などで、いずれヨーロッパの美術館を訪れるまでに、絵画を理解する知識ももっと身につくことでしょう。
 最後に、「額縁も絵に合ったものを使っていて、額縁あっての作品だと思った」というように、額縁に注目した学生も何人かいました。画集だけで絵を見ていてはできない経験です。これからは自分で美術館に足を運んでもらえたら嬉しく思います。

                                                                  ■ 鑑賞を終えて